今、日本国内のリンゴ産地では、シードルの醸造が増えています。その中でも最もシードルを造る醸造所が多いのが長野県です。
一般的なナガノシードルの特徴は、レモンイエローの涼しい色味にフレッシュでフルーティな香りと溌剌とした味わいです。
糖度の高い食用リンゴをシードルの原料とすることが多く、海外産と比較すると、繊細でスッキリとした味になります。手間ひまかけてつくった辛口シードルは純米吟醸酒のようだと表現する人もいて、自然と日本の風土に合った味になります。外国産シードルではペアリングが難しいイクラや刺身と合わせてもおいしいだけでなく、揚げ物と合わせると淡麗な味が丸みを感じるようになるのもナガノシードルのおもしろさです。
日本でシードルを造る醸造所は、海外の醸造所に比べてその業界が多様なバックグランドを持っています。欧米のシードル産地に比べて生産量や事業者数はまだまだ少ないですが、日本のシードル業界の構造も小さなりんご農家から大手メーカーまで、一通り形成されてきています。長野県では、地元のワイナリーがシードル造りを牽引してきましたが、近年はシードル専門の醸造所も増えています。また最近はシードルとも相性の良いビールのブリュワリーの参入も見かけるようになり、それらを分類しながら紹介します。
まず、シードルを製造する造る事業者の主力商品のカテゴリーを挙げると、ワイン、ビール、日本酒、そしてシードルと分けることができ、それぞれの醸造所はワインであればワイナリー、ビールはブリュワリー、日本酒は酒蔵、シードルはシードルリー(英語ではサイダリー)とよばれます。
・ワイナリー
日本で最もシードルの銘柄数を生み出しているのがワイナリーです。特に長野県などリンゴ産地にあるワイナリーでは、自社ブランドとしてのシードルはもちろん、近隣のリンゴ農家から委託されシードルを造る事例も増えています。近年では、シードルの人気も上昇傾向にあるため、ぶどうが不足しがちな創業時に限り造ろうと考えていたシードルがそのまま定番商品となるケースや、あらたにシードルを造り始めるワイナリーも現れてきています。
・ブリュワリー
海外同様、日本のシードルもビールメーカーの系列会社で最も多く生産されています。また小規模なマイクロブリュワリーでもシードル造りをおこなうことが比較的容易で、果実酒製造免許がない場合でも、発泡酒製造免許でシードルといえるものが造れます。その際、麦芽をほんの少し入れる必要がありますが、麦芽使用比率67パーセント未満という上限は法律上決まっているものの、下限が規定されていません。したがって、少し麦芽が入っていれば、りんごの果汁でシードルが造れます。シードルの販売が軌道に乗ったブリュワリーでは、りんご100パーセントで造ることができる果実酒製造免許を取得する事例も出てきています。
・酒蔵
日本酒の酒蔵が、果実酒免許を取得してシードルを製造するケースもあります。リンゴ産地にある酒蔵であることが多く、地元の要望に応えて参入することも多いようです。味わいはどことなく日本酒の風味を感じることができます。また、発酵中にシードルを瓶ごとお湯に入れて発酵を止める低温殺菌技術(瓶燗火入れ)の技術や設備を持っているため、瓶内二次発酵の甘口のシードルを作ることができます。
・シードルリー、サイダリー
これまで挙げた醸造所は、ワイン、ビール、日本酒などをメインに造る醸造所がシードルを造っているケースです。今、一番注目されているのはシードル専門の醸造所です。メディア各社から取材を受ける際も、シードル人気の裏付けとしてシードルの専門店や専門醸造所について問い合わせがあります。現在、シードル専門の醸造所は全国に12軒ほどありますが、海外のシードル生産国であるイギリスやフランス、アメリカ等に比べたら、まだまだ少数です。今後シードルの需要がさらに増えることで、シードル醸造所はもっと増えるでしょう。